今回は初めての試みで、美術に関する本をレビューします。
記念すべき初めての本に選ばれたのは、東山魁夷著「日本の美をもとめて」です。
こちらの本は、画家の東山魁夷の講演会などの文章をまとめたもので、画家自身が書いた文章というのは少なく、画家の頭の中を覗き見れる貴重な本ではないのかと前々から思っていました。
先日山種美術館の「没後25年記念 東山魁夷と日本の夏」に行ったことで、東山魁夷熱が高まり、「日本の美を求めて」を購入してしまいました。
全119ページの薄い本なのですが、魁夷のわかりやすく美しい文章のおかげでスラスラと読めてしまい、あっという間に読破してしまいました。
ではさっそくレビューをしていきます。
日本の美を求めて 概要&評価
この本は、日本画の巨匠である東山魁夷が書いた随想や講演の記録をまとめたものです。
講演の記録については昭和50年に開催されたものです。
このころ魁夷は唐招提寺の障壁画を手掛け、
障壁画を揮毫したことによって、私の中に日本の美を求める心が、いっそう高まった時期のものであり、
東山魁夷「日本の美を求めて」より
上記のように日本の美しい風景をもとめていた時期に書かれた文章です。
ですので、魁夷が感じる「日本の美しさ」を、画家本人から聞くことのできる貴重な本となっています。
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今回紹介する「日本の美を求めて」の評価は、
おすすめ度 ★★★★★
読みやすさ ★★★★☆
になります。
ポイント
日本文化への深い理解
「やまとしうるわし」の章では日本美術史について駆け足で解説しています。
やまとしうるわしは、昭和50年8月に奈良県桜井市で行われた講演会の内容を文章にしたものです。
この章では、主に日本文化と西洋文化の違いを魁夷がどのように捉えているかを論じています。
さらに、島国で閉ざされた環境の中で、外国から入ってきた文化を日本の文化に合うように工夫してきた事も解いています。
魁夷は美術学校卒業後、ドイツに2年留学しています。
日本とドイツに留学した魁夷ならではの視点で日本文化の良さを再認識させてくれます。
そして日本文化を賛美しながらも、西洋文化、日本文化に大きな影響を与えている中国文化、それぞれの文化を尊重していることも文章から感じられます。
他国の文化を尊重する行動として、実際に魁夷はドイツの「窓」をテーマにした『窓』という画集も出しています。
私はドイツの人の温い心を日本人に多く知らせたいと思ったのです。日本ではドイツ人の優秀さをよく知っていても、外を通る人のために、又は町の美観のために、窓辺に花を飾る優しい心を知る日本人は少かったからです。
東山魁夷「日本の美を求めて」より
上記のような想いから『窓』という画集を出版しています。
この文章は、1975年にドイツにあるケルン市日本文化会館にて行われた講演「二つの故郷の間に」の章から引用しました。
この講演の最後には以下のように締めくくられています。
また、ドイツの人にも、より多く日本の良さを知っていただきたいと思います。私の今度の展覧会が、そのために少しでも効果があれば、大きな幸いであります。
東山魁夷「日本の美を求めて」より
日本とドイツ、2つの国で暮らしたからこそそれぞれの良さがわかる魁夷。
日本という国を大きく様々な方向から見て来た魁夷の視点は、今後グローバル化がさらに進む世界において私たちが知っておくべき視点だと思います。
詩情にあふれた文章
自身の作品に「緑響く」「緑潤う」「年暮る」など、素敵な題名をつけている魁夷。
そんな魁夷の詩情にあふれ、なおかつ読みやすい文章に触れる事ができます。
魁夷自身の日本語が美しいです。
自身の作品につける題名の美しさから、魁夷の文章の美しさはどこから来ているのだろうと長年不思議でした。
今回この本の中で「万葉集」を全て読んでいることを知り、魁夷の美しい文章の秘密は日本の古典文学への理解だったのだと納得しました。
「やまとうるわし」の章では、「古事記」や「日本書紀」から引用している部分もあります。
ですから、魁夷は多くの日本の古典文学に触れてきたことが窺えるのです。
画家でありながら、ここまで日本の古典文学に親しんでいる魁夷に脱帽です。
恩師との出会い
「やまとうるわし」の章では、魁夷の中学時代の恩師との出会いについても触れています。
その先生は国語の先生で「植栗先生」といいます。
植栗先生は、魁夷に「画家にならないのか?」と質問し、魁夷が「ならない」と答えると、さりげなく「画家の道を歩め」と背中を押してくれたそうです。
また植栗先生は、折口信夫さん(国語学者)直筆の歌が書いてある扇を魁夷にあげています。
ですので魁夷も植栗先生のことは大変印象深い恩師のようで、植栗先生との出会いが古典文学への興味のきっかけと魁夷自身が述べています。
魁夷は美術学校に通っているときに「ポケット万葉集」を全て読んでいます。
これらの経験が東山魁夷という画家の歩みを決定づけたのだと思います。
「やまとしうるわし」の章では、
この大和が私たちの心にあるかぎり、日本文化は亡びない
と結んでいます。
今現在、日本文化は外国製の安い既製品に押されて、存続の危機にあっていますが、この現状を魁夷が知ったらどんなに嘆くだろうと思います。
東山魁夷の芸術は好きだけれど、日本文化をあまり知らない人にも是非読んで欲しい一冊です。
魁夷の読みやすい文章で、日本の文化の良さを知るきっかけになると思います。
まとめ
今回は初めての試みで東山魁夷著「日本の美を求めて」をレビューしてきました。
画家自身が紡いだ文章ということで、普段は作品を通してなんとなく感じていた魁夷の考えをしっかりと認識することができる貴重な書籍になります。
東山魁夷の絵が好きな人、東山魁夷って誰?という人も、日本の良さに気づくきっかけになる本になると思います。
一読の価値ありです!